2017.01.31
ストレスは原因か?結果か?-脱毛症と免疫―
国立病院機構 関門医療センター 女性総合診療センター長 早野 智子先生の投稿です。
女性総合診療に通院される方々の中には、年齢や主訴は異なっても、合併症状に共通する項目が時々見受けられます。その一例が円形脱毛症です。
私の専門分野は循環器内科ですので、円形脱毛症の訴えがある場合は、必ず皮膚科と併診して頂くのですが、患者さんのおっしゃる状態と皮膚科の先生のお話には、常々、身体の防御機構の不思議さ・奥深さを感じます。
元来、円形脱毛症は女性のみならず、年齢や性別に関係なく誰にでも起こる可能性があるとされています。
突然コインのような円形や楕円形状に脱毛が起こりますが、脱毛部周辺の毛髪を引っ張ると、ほとんど痛みもなく簡単に脱毛し続けてしまいます。その抜けた髪の毛を観察すると、根元が毛先よりも細いのが特徴です。ちょうど、「!」英語の感嘆符(exclamation mark)のように髪の毛の根元が細くなり、ちょっとした刺激で切れるわけです。
では、広範囲に髪の根元が細くなる原因は何かと言いますと、現在は自己免疫疾患を原因と考えることが主流となっているようです。
細菌やウイルスなどの外敵から身を守るリンパ球が誤って成長期の毛包を攻撃・破壊してしまうため、毛包が縮んで休止状態になります。
この自己免疫機能の異常が円形脱毛症の原因と考えられていますが、なぜこのような異常が起こるのかについては、説が分かれます。一般的に「極度のストレスが円形脱毛症の原因」と思われることが多いようですが、ストレスと円形脱毛症との関係ははっきりとしたメカニズムが解明されておらず、ストレスは円形脱毛症の「原因」というより「誘因」であるという考えもあります。
ただ、実際に円形脱毛症は単発型に限らず、多発型、蛇行型、全頭型、全身にわたる汎発型と様々な病態があり、患者さんの辛さも並々ではありません。
脱毛症が発症する時には、頭皮がアレルギー反応でピンク色になり、ピリピリとした痛みやしびれを感じる場合もあれば、同時に爪が薄く割れやすくなるなど、全身の皮膚にもアレルギーによる症状が出やすいことが知られています。
同時に出る複数の症状の中でも、髪の毛は他の体毛と異なり、一度切れ毛・抜け毛となると生えそろうまでに長期間を要しますし、最も人目に付きやすい部分であるだけに、患者さん自身も特に気になります。
女性には出産直後にホルモンバランスの影響で一過性の脱毛症を生じるケースがあることも知られていますが、いずれにしても脱毛そのものが女性の大きな悩み・ストレスとなることは事実です。
そこで、まずは脱毛の症状に気付いたら、すぐに皮膚科専門医に受診いただくことが何より大切とお勧めしています。
私共の女性総合診療に来院される方々の皮膚科治療法を拝見しますと、
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血管拡張効果のある塗り薬、抗アレルギー作用や血流を促進する作用のある飲み薬の服用
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炎症を抑えるステロイド薬の患部への塗布や注射、重症例では内服
が多いようです。
その他文献によると、免疫状態の改善目的で医療用の紫外線を当てる光線療法や、患部をドライアイスで刺激する雪状炭酸圧抵療法、人工的に皮膚に軽い炎症を起こさせる局所免疫療法などもあるようです。
日常生活における対処法としては、寝不足の解消、栄養バランスの良い食事、適度な運動が何よりのポイントです。
最後に、一度生じた「円形脱毛症」という名のアレルギー症は、花粉症等と同様、実は再発しやすいものです。季節の変わり目にも再発しやすいとされており、事前に予防目的で抗アレルギー薬の服用をするなど対策をとりましょう。
通院される患者さんの中には、「忙しい時期がある程度続くと、洗髪時に髪の毛のこしが弱くサラサラと自然に沢山抜けていくようになるのが自分でわかります。以前にもらった薬をまた塗り始めました。」と淡々と対処される方もおられます。
このように、症状によっては長期にわたって治療が必要になりますが、「脱毛が起こっている部分の毛包は休止していても完全に破壊されているわけではないので、諦めないことが大切です」と専門医の先生は言われます。
自分自身では見えない部分の状態観察・治療をきちんと続けるためにも、家族や専門医、周囲と協力して前向きに対処しましょう。
国立病院機構 関門医療センター 女性総合診療センター長 早野 智子